逆プロポーズした恋の顛末
「ゆーこちゃん?」
「ゆーこちゃんとケンカしたんでしょ?」
「……ゆーこちゃんというのは」
訝しむ所長の視線を受け、言わずに済ませるわけにはいかないと思った。
「立見 夕雨子さんです」
「アレと、会ったのか?」
「はい。ぜひ会いたいと言われて。四年前、わたしと尽の仲を裂くような真似をして申し訳なかったと、謝罪されました」
「謝罪……アレが、か?」
余計なことは言うべきではないとわかっていた。
けれど、「あり得ない」と言いたげな所長に、夕雨子さんの気持ちを少しでも理解してほしいと思ってしまった。
「自分は、ひとの気持ちがわからない人間だったと仰っていました」
「…………」
「あのね、ゆーこちゃんは、ぼくとママは会いに来てくれたからごめんなさいできたんだって。でも、おじいちゃん先生に会いにいく元気がないから、ごめんなさいできなかったんだって」
幸生は、夕雨子さんから聞いた話を所長に伝え、保育園では「当たり前」のことをしたらどうか、と提案した。
「あのね、ケンカしたら、二人で『ごめんなさい』して、仲直りするんだよ! 園長先生が言ってたよ。どうしてもごめんなさいって言えなかったら、お手紙にしてもいいんだって」
「お手紙?」
「ゆーこちゃんはもう会えないけど、ぼくのお手紙読んでくれるって言ってたよ! だから、おじいちゃん先生も書こうよ!」
「……でも、ゆーこちゃんは、幸生くんからの手紙しか読まないと思うぞ? それ以外は、破って捨ててしまうかもしれない」
自嘲を滲ませ、そう呟いた所長を怒鳴りつけたのは吉川さんだ。
「夕雨子さんは、そんな人ではありませんっ!」