逆プロポーズした恋の顛末
「わたしも……尽がいてくれて、尽が幸生の父親でよかったと思っています」
「そう言ってもらえるなんて、尽は幸運な男ですね。それなのに……四年前の件については、午来弁護士から伺っています。何も知らなかったとはいえ、母のせいで辛い思いをさせてしまい、申し訳なく思っています」
頭を下げる義父に、慌ててしまう。
「そんな、とんでもありません! もう過去のことですし、謝罪は夕雨子さんにしていただいたので、もう……」
「過去に遡って償うことはできないけれど、これからは何か困ったことがあれば、遠慮なく相談してください。尽の愚痴でもかまいませんよ」
「あの、いえ、あの……ありがとうございます」
さすがに、尽の愚痴を言うなんてことはできないが、密になりすぎず、疎遠になりすぎず。程よい距離を保ち、いい関係を築けたら、と思う。
義父は、さっそく孫とのコミュニケーションを図るべく、クレヨンを握ったまま目を丸くし、ぽっかり口を開けていた幸生の傍にしゃがみこむ。
「幸生くん、こんにちは」
「こんにちは!」
義父に微笑みかけられ、ハッとした表情になった幸生は、すぐに元気よく挨拶を返す。
「はじめまして、だね? おじさんは、立見 恵。パパのパパだよ」
「パパのパパ?」
「うん。それで、おじいちゃん先生とゆーこちゃんの子どもなんだ」
「おじいちゃん先生と、ゆーこちゃんの?」
「そう。おじさんのパパはおじいちゃん先生で、ゆーこちゃんはママ」
「ふうん……」
わかったような、わからないような、微妙な表情で頷いたものの、何かいいことを思いついたらしくパッと顔を輝かせる。
「そうだ! おじさん、ゆーこちゃんにたのんでくれる?」
「うん? 何かな?」
いきなりお願いごとをされて、困惑しながらも優しく問い返す義父に、幸生は息継ぎもせず胸の内に溜まっていたものを吐き出すように言い募る。
「おじいちゃん先生のお手紙! ゆーこちゃん、遠くに行っちゃったから、もう会えないんでしょ? だから、ぼくと一緒にお手紙書いて、ごめんなさいするの。でも、おじいちゃん先生は、ゆーこちゃんはぼくのお手紙以外は読んでくれないって言うの!」
幸生の要領を得ない説明でも、夕雨子さんの現状を知る義父は理解できたようだ。
「なるほど」と呟いて頷き、未だ理解できない状況に困惑している様子の所長へ目を移し、もう一度「なるほど」と呟いた。
夕雨子さんについて、何をどう話すかの判断を下すのは、わたしよりも義父のほうが適任だろう。
医師でもある彼ならば、病状についても所長にきちんと説明できるはず。
問題は、彼に話す気があるかどうかだけれど……。
そそくさと帰るつもりはなさそうなので、取り敢えず座るよう勧めた。
「あの、どうぞおかけになってください」
「ああ、ありがとう」