逆プロポーズした恋の顛末
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吉川さんと所長が帰ってしまうと、尽は自分が入浴するついでに幸生も、と言ってバスルームへ連れて行った。
浴室で遊べるようなおもちゃは置いていなかったはずだが、幸生の笑い声や叫び声が微かに聞こえる。
(尽ってば、また何か余計なこと言ってないでしょうね……?)
尽がいる時、幸生はわたしとお風呂に入りたがらない。
これまでは、単にパパと一緒にいたいからだとばかり思っていたが、そうではないかもしれない気がし始めている。
もしかしたら、お風呂はパパと「男同士の話をする場所」だから、かもしれない。
二人でいったいどんな話をしているのか。
ものすごく気になる。
できることなら、こっそり盗み聞きしてみたい。
けれど、いまのわたしは、盗み聞きどころかバスルームへ忍び込むのもままならない状態だ。
(とりあえず、男同士の秘密を追求するのは後回しにするとしても……今夜は尽と話したいこと、話さなくちゃいけないことがいっぱいあるわ。どうか幸生が早々に寝てくれますように……)
そんなわたしの祈りが通じたのか。
それとも、やっぱり尽と男同士の話をしたのか。
幸生は尽がカレーを食べている間、薬を呑むためのお水を持って来てくれたり、打撲した箇所を擦ってくれたりと、甲斐甲斐しくわたしの世話を焼いてくれた。
そして、尽に「寝る時間だぞ」と言われると、「ママ、おやすみ!」と手を振って、すんなり寝室へ向かう。
入院していた時、「ママと一緒じゃないと寝ない!」と泣きべそをかいて、尽を困らせていたのが嘘のようだ。