逆プロポーズした恋の顛末


二人が寝室へ消えて十五分くらい経っただろうか。
足音を殺してリビングへ戻って来た尽は、ソファーでくつろぐわたしを見下ろし、ニヤリと笑う。


「今度は、律の番だな」

「何が?」

「風呂だ」

「え?」


確かに、お風呂に入りたいとは思っていた。
しかし、手すりもあるし、シャワーするくらいなら自分でできる。

そう言おうとした身体が、ふわりとソファーから浮いた。


「じ、尽!」

「診察も兼ねている」

「嘘でしょ」

「嘘じゃない」

「診察なら、別のお医者さまにみ……」

「他の医者に何を見せる気だ?」

「な、何って……あのね、他のお医者さまは、尽とちがって下心なんかないわよ」

「妻に下心を抱かない夫がいるとでも思ってんのか?」

「わたしは、まだ妻じゃないし、患者でしょう?」

「どっちも律なんだから、一緒だろ」

「一緒ってっ……」

「律の面倒を見るのは、俺と幸生の役目だ。男同士の話し合いの末、所有権は、昼と夜で折半してある」

「ねえ、尽。幸生と男同士の話をするの、ちょっと早すぎない? 幸生はまだ三歳なのよ? それに、息子と張り合うってどうなのよ?」

「三歳だろうと、息子だろうと、男は男だ。それに……父親として、幸生にとって最大のライバルで、超えたいと思う存在でありたいんだよ」


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