逆プロポーズした恋の顛末
そう訴えた尽を、プライドが高いだけだとは、思わなかった。
むしろ、その逆だ。
「尽は、いまだって十分、幸生にとって背中を追いかける存在だと思うけれど?」
「追いかける、というより、まつわりついているけどな」
「……確かに」
母子二人暮らし。寂しくないようにとわたしがスキンシップ多めに育てたせいもあるだろう。
幸生は、自分からスキンシップを取るのが大好きだ。
尽は、わたしや保育士さん、所長ともちがい、小脇に抱えたり、肩に担いだり、といったダイナミックなスキンシップを図るので、楽しいのだろう。家の中ですら、その足にまつわりつくようにして、追いかけ回す。
水族館に行った日の夜も、そんな風にして部屋の中で尽を追いかけ回し、尽が「まるでコバンザメだな」と感想をもらすと、おなかにピタッとくっついて見せ、尽を爆笑させていた。
他の家庭がどうなのかは、知らない。
けれど、幸生にとって尽は、まちがいなく大好きな「パパ」だ。
「幸生は、まちがいなく、尽がパパでよかったと思ってるわ」
「律は?」
「わたしもよ」
「俺は律のパパじゃねーよ」
バスルームの扉を入った途端、尽の唇が降ってきた。
優しく、あやすようなキスに、すぐさまわたしの身体は反応する。
素肌を伝う手や指の感触に身体が火照り、キスの合間にこぼれる吐息にねだるような声が交じってしまう。
彼に甘えたいと思っているのが、バレバレだ。
洗面台横のスペースに座らされ、心地いキスに酔いしれている間に、脱ぎ着きしやすいデザインのルームウェアは床へ落ち、下着も同じ末路を辿る。
しかし。
尽がその先へ進むことはなく、わたしの身体のあちこちにできている痣の状態を確かめると、あっさり浴室へ運び込んだ。
「怪我人相手に、どうこうするつもりはねーよ」と言われ、髪を洗われ、身体を洗われる。
(怪我が治ったら、絶対に仕返しする……)
なんて復讐を誓いながら、尽にバスタオルで身体や髪を拭われ、パジャマ代わりのTシャツとスウェットを着せられた。
下着も着せてやると言われたが、自分で出来ると断固拒否だ。
尽は「脱がせるのはいいのに、納得がいかねー」と不貞腐れていたが。
たいていの場合、脱ぐ時は理性は働いていないから何とも思わないだけで、着る時は理性が働いているのだから、恥ずかしさの種類がちがう。