逆プロポーズした恋の顛末
リビングに戻り、ドライヤーでわたしの髪を乾かしてくれた尽は、冷蔵庫からミネラルウォーターを二本取り出し、そのうちの一本をわたしに手渡した。
ソファーに並んで座り、二口ほど飲んだところで、おもむろに口を開く。
「……オヤジ、さんざんジイさんをヘコませたんだって?」
「知ってたの?」
「俺のところへ来て、バアさんのことも一緒に説明していったからな」
人と会う約束があると言っていたのは、尽のことだったのかと納得した。
「尽は、夕雨子さんのこと、本当にまったく知らなかったの?」
「ああ。親でさえ、まともに顔を合わせるのは年に数回だ。バアさんとは、ここ何年も話す機会さえなかったから、驚いた。病気の方が避けて通るタイプだと思っていた」
「所長も、そう思っていたのかもね? かなり驚いて……落ち込んでたわ。幸生が、夕雨子さんに手紙で謝ったらどうかとか、夕雨子さんの好きな薔薇の花を贈ったらどうかとか、いろいろ提案したんだけど、『うん』と言ってくれなくて……」
「だろうな。オヤジは、わざと辛辣なことを言ったらしいから」
「……わざと?」
「相手に拒絶されるかもしれないと思いながら歩み寄るのがどんなに勇気のいることか、体験すればよくわかる」
半分呆れ、半分同情するように切なげな溜息を吐いた尽もまた、このままでいいとは思っていないようだった。
「ま、一晩寝たら、少しは冷静になるだろう。『いつか』を待つ時間はもうないとわかったんだ。いい加減素直になるだろ。明日、バアさんの家に、様子を見に行ってくる。オヤジにも、伝言を頼まれているし」
「所長、夕雨子さんの家にいるの?」
鍵を貰ったのだから、自由に出入りできるだろうが、滞在しているホテルへ戻ったとばかり思っていた。
「吉川さんから、送り届けたと連絡があった」
「……そう」
「とにかく律は、まず自分の身体を第一に考えろ。怪我を治して、それから他人の心配をしろ」