逆プロポーズした恋の顛末
「いや、それはさすがに……」
「オヤジが、同期の伝手で近々帰国予定の心臓血管外科医に声をかけていて、いい感触らしい。外科部長のポストを提示できるなら、報酬面での折り合いもつくだろうと言っている」
「名前は?」
「佐貝 堅」
所長は、その人物を知っているらしく、うんうんと何度も頷いた。
「佐貝か。悪くない。外科医としての腕は文句なしだし、コミュニケーション能力も高い」
「知ってるのか?」
「村雲部長の後輩だ」
「じゃあ、そっちから圧をかけてもらうか。村雲部長のゴリ押しを断れる人間は、まずいないだろ」
「そうだが、いや、しかしな……」
やっぱりいかん、と言い出しそうな所長に、尽は残酷で、しかし揺るぎない事実を突き付けた。
「なりふり構っていられないだろ? どうしても診療所に戻りたければ……全部終わってからでも、いいはずだ」
「…………」
その時は、もしかしたら思ったよりも先になるかもしれない。
けれど、夕雨子さんが再び健康を取り戻し、この家に戻ってくることは、もうないのだ。
医師であり、何人もの患者を見送って来たであろう所長は、そのことを誰よりも理解しているはずだった。