逆プロポーズした恋の顛末
「……そう、だな」
肩を落とす所長の手を握り、幸生が軽く引っぱった。
「ねえ、おじいちゃん先生。ゆーこちゃんち、探検した?」
「ん?」
「ゆーこちゃん、いっぱい宝物があるんだって言ってたんだ!」
「宝物?」
「行こっ!」
「お、おいおい、幸生くん」
ぐいぐいと手を引く幸生に引きずられるようにして、所長はリビングを出て行く。
こういう時、子どもの力は本当にすごいと思う。
塞ぎこんでいた気持ちを、たったひと言で、何気ない行動で、明るくしてくれる。
大人がどんなに言葉を尽くしてもどうにもできない状況を、あっさり変えてしまう。
でも、それは無意識のものではなくて、子どもなりに気を遣っているという場合もある。
幸生は、所長と夕雨子さんに仲直りしてほしくて、一生懸命なのだ。
「どうにかして、夕雨子さんに、所長に会う気になってもらえないかな……」
「バアさんも、ジイさんに負けず劣らず頑固だからな。肩をつかんで揺さぶって、背けようとする顔をがっちりつかんで、誰の目にも明らかなくらいの気持ちを見せつけなきゃならないだろうな」
「誰の目にも明らかなくらいって……たとえば?」
「ロミオとジュリエットみたいに、ジイさんがバラの花束を抱えて窓の下からプロポーズするとか?」
「それ、尽はできるの?」
「無理だな」
「自分にできないことを人に求めちゃダメでしょ」
「たとえだよ。恥ずかしいだの何だのと言ってないで、プライドをかなぐり捨てるくらいの覚悟と勇気が必要だってことだ」
「それはそうだろうけれど、所長くらいの年代の人は、あからさまな愛の告白なんてしないのが普通じゃない?」
「だからこそ、重みがあるんだろ。ただし……聞いてもらえなければ、声が届かなければ、意味はないけどな」
「そう、よね……会ってもらえなくちゃ、何も始められないわよね……」
(何か、ない? 夕雨子さんが、断り切れなくなるようなきっかけ……)