逆プロポーズした恋の顛末
「アイちゃん! いや、りっちゃんか。久しぶりだね。元気にしていたかい?」
「はい。今日は、お忙しいところ、エスコート役を引き受けてくださって、ありがとうございます」
突然、九重会長から「バージンロードを一緒に歩きたい」と連絡があったのは、つい一昨日のこと。
いったい、どこからどう聞きつけたのか。
驚いたけれど、ひとりで歩くつもりでいたから、とても嬉しかった。
「なに、腕を貸すのは紳士のつとめだ」
「わたし、九重会長以上の紳士には、出会ったことがありません。ただのホステスに、ここまでしてくださるなんて……」
「ただのホステスじゃあない。わたしにとっては恩人で、柾にとっては数少ない大事な友人のお嫁さんだ」
「え? 柾……って、お孫さんの?」
どうして柾さんの名前が出るのだろう。
首を傾げるわたしに、九重会長は「知らなかったのかい?」と笑う。
「柾と立見くんは、高校の同級生、大学も学部は別だが同期なんだよ」
「え! そうだったんですか!」
まさかそんな繋がりがあったなんて、思っても見なかった。
世間は狭いと言うけれど、本当に狭い。
「二人のなれそめを聞いた柾が、立見くんのお相手は『アイちゃん』じゃないかとピンと来たらしくてね。教えてくれたんだよ。こうして大役も任せてもらうことだし、今後は祖父代わりとして遠慮なく頼ってもらいたい。今度、立見くんと一緒にうちへ遊びに来なさい」
「はい……ありがとうございます」
九重会長の心遣いに、思わず涙ぐんでしまったが、ジョージに一喝された。
「メイクはウォータープルーフだけど、泣くのはまだ早い! さ、ヴェールを下ろすわよ」
軽く膝を折ったわたしの視界を、シフォンのヴェールがふわりと覆う。
「では、」
スタッフがゆっくりと扉を開いていく。
扉の向こうには、真正面に豪華なステンドグラス、祭壇――そして、バージンロードの先に佇む尽の姿があった。