逆プロポーズした恋の顛末


尽と幸生の少し後ろを歩くわたしに、ようやく顔を合わせることができた尽のお母さん――お義母さんが並ぶ。


「幸生くんが、あんまりにも小さい頃の尽にそっくりで、びっくりしたわ」


パリッとしたスーツに身を包み、キャリアウーマンといった雰囲気がありありと感じられるが、幸生を見る目はとても優しい。


「やっぱり、似ています?」

「ええ。本当にそっくりよ。誰がどう見ても、父子でしょ。似たもの親子で、仲もいいみたいだし。でも……尽と再会するまで、おひとりで苦労されたわよね?」

「所長――大鳥先生が傍にいてくれましたから。苦労というほどのことは、ありませんでした」

「それでも、夫のサポートを受けられずに子育てするのは、並大抵のことではなかったはずよ。いまさらだけれど、不甲斐ない親で申し訳なかったわ」

「とんでもない! あの、本当に、苦労だなんて思ってませんでしたから! それに、ひとりで幸生を育てると決めたのは、わたし自身なので……」

「でも、そのきっかけを作ったのは、尽の祖母。夕雨子さんでしょう?」

「それは……」


義母は、わたしと尽が一度は別れたのは、夕雨子さんが原因だと義父から聞いているようだ。
自分たちも、所長たちのことをとやかくいえるようないい夫婦関係を築けていないと義父は言っていたが、その原因の一つに、嫁姑の問題があったのかもしれない。

そう思ったのだけれど、彼女は意外にも夕雨子さんを庇う発言をした。


「ただね、こんなことを言っても信じてもらえないかもしれないけれど、彼女に悪気はなかったと思うの。義母は、世間知らずのお嬢様育ちなだけで、底意地が悪い人ではないわ。彼女自身、病院のため、跡継ぎを産むため、そういう結婚をしたものだから、それが普通で当たり前だと思っていただけで……。尽のことも、わたしたち二人が忙しさを理由に、ほとんどかまってやれなかった分、気にかけてくれていただけなのよ。尽にしてみれば、口うるさいとしか思えなかったかもしれないけれど、わたしたちよりも、よほど尽の将来を真剣に考えてくれていたと思うの。だから、どうか許してあげてほしいわ」

「許すも何も……直接お会いして、謝罪いただきましたし、気にしていません」

「そう? それならいいのだけれど。義母は不器用で、誤解されやすい人なのよ」


悲しげに微笑む義母は、夕雨子さんの性格をよくわかっている。

だからこそ、訊いてみたくなった。



「あの……夕雨子さんと所長――大鳥先生は、お似合いの夫婦でしたか?」



義母は怪訝な顔をしたものの、すぐにちょっといたずらっけのある笑みに差し替えて、答えてくれた。



「ええ。意地っ張りで、頑固で、そのくせ一途で……。似たもの同士、とてもお似合いの夫婦だったと思うわ」


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