逆プロポーズした恋の顛末
(あとは、本人が言葉にして伝えるだけなんだけど……)
頑固な所長がどこまで素直になれるかは、未知数だ。
わたしたちにできるのは、きっかけを作ることだけ。
背中を押してあげることだけだ。
(それにしても……やっぱり寝相は一緒なのね。マトリョーシカみたい)
大小の同じ体勢で眠りこける尽と幸生の様子をスマホで撮影し、運転手さんにどれくらいで目的地に到着するのか訊ねたところ、あと五分だと発覚。慌てて二人を起こしにかかる。
「尽! 幸生! もうすぐ着くって!」
「ん?」
「……ママ?」
「おはよう、幸生。もうすぐ降りるから、はい、起きて!」
脱いだジャケットを着せかけて、乱れた髪を整えてやり、軽く顔を拭いてやる。
尽は、セットした髪を元に戻すどころか、ぐしゃぐしゃとラフにかき回す。
もったいない気もしたけれど、少しやんちゃな感じの方が尽らしい。
「りっちゃん、もうすぐ着くって、どこにだ?」
焦れる所長ににっこり微笑み返す。
「どこかに、です」
「りっちゃん!」
「着けばわかります」
リムジンは速度を落とし、丘を巡るようにして登っていく。
一本道の行き止まりには二階建ての白い建物があったが、看板も何もなく、どんな施設なのかは、一見してわからない。
ただ、吹きつける風に混じる潮の匂いで、海が近いとわかるだけだ。
「ここは……」
リムジンから降り立った所長が、不安に揺れる表情で尽を振り返る。
「外で突っ立っててもしかたないだろ。中へ入ろうぜ」
「こんにちは」
正面玄関を入るなり、白衣を着た中年の女医が出迎えてくれた。
事前に連絡していたので、わたしたちの恰好を見ても「ステキね」と微笑むだけで、驚きはしない。
「夕雨子さん、朝から首を長くして待っていたの。どうぞ、こちらへ」
「夕雨子? 待っていたって、どういうことだ」
ハタと我に返ったように、所長が立ち止まる。
「そういうことだよ。ここはホスピスで、バアさんはここにいる」
「……ここに?」
「会いたいんだろ?」
「……だが」
「夕雨子ちゃんが待ってるんだって! おじいちゃん先生、早く行こうよ!」
ためらう所長の手を幸生が引いた。