逆プロポーズした恋の顛末

晴旭(はるき)は、我が家の次男。
現在、医学部で医師になるべく学んでいる最中だ。

まだ医者のタマゴにもなっていないが、治すことと同じくらい、癒すことにも興味があり、アロマやハーブについて研究中。料理上手で女子力高し。女の子のお友だちも多く、気配りに長けている。

もう一方のコウくん――幸生は、千陽ちゃんとは幼馴染である、我が家の長男だ。

海洋生物学者として世界中を飛び回り、一年の大半を海の上で過ごしている。
幼い頃は、晴旭同様「お医者さんになる」と言っていたのだが、わたしと尽が結婚し、一緒に住み始めてから飼い出した熱帯魚によって、その夢はあっさり覆された。

水槽の中で泳ぐ魚たちにすっかり魅了された幸生は、さらに大きな水槽――海で暮らす魚へと興味を移し、水族館に通い詰め、大学は海洋生物学を専攻。大学院、留学を経て、現在は某国の海洋生物学研究所でフィールドワークに明け暮れている。

洋上に出ていることが多いのもあるが、こまめに連絡を寄越すタイプではなく、ほとんど音信不通といってもいい。

今回の帰国も、日本の空港に着いてから「帰って来た」と連絡を寄越す始末。
怒るのを通り越し、呆れて物も言えない。

いったい誰に似たものか。
尽は「俺じゃない!」と言い張っているけれど、瓜二つの父子。まるで説得力がない。


「そのお茶、晴旭が用意したの?」

「はい。大学の研究室で栽培していたものらしいです」

「怪しげなものじゃないわよね?」

「あはは、大丈夫ですよ。カモミールなので」

「で、肝心の幸生は……」

「まだ寝ているみたいです」

「まったく、あの子は……起こして来るわ」


もう十時を過ぎている。
惰眠を貪る息子を叩き起こそうと腕まくりすると、千陽ちゃんが慌てて止める。


「いえ! いいんです! 晴旭くんが、出がけに起こしに行ってくれたんですけれど、それでもダメだったから。もうちょっと待って、それでも起きて来ないようなら、今日は諦めて帰ります」

「でもね……」

「急ぎの用があるわけじゃないので」


そう言って笑う千陽ちゃんの顔には、寂しさが滲んでいた。

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