逆プロポーズした恋の顛末

「いや、そういうわけにはいかないから、代理を頼む。知り合いに、地域医療に興味がある若手の医者がいてね。研修がてら、呼び寄せることにした。月曜から、引き継ぎを兼ねて診察に入ってもらう。なるべく、りっちゃんと山岡さんの負担にならないようにするつもりだが、よろしく頼むよ」

「こちらこそ、足を引っ張らないよう頑張ります」


所長が代理を任せるくらいだ。
真面目で、優秀なお医者さんに決まっている。


「まだまだ若造だから、ビシバシ鍛えてやってくれ。そうそう……かなりのイケメンだぞ?」


ニヤリと笑う所長に、こちらもニヤリと笑い返す。


「所長ほどではないでしょう?」

「まぁな。顔もいいが、腕も悪くないと指導医が言っていたから、うちの常連さんに鍛えてもらえば、ヒヨっ子から若鶏くらいにはなれるかもしれん」

「一人前のお医者さんになるのって、本当に大変ですよね……」


医師免許を取っただけでは、医師にはなれない。
初期臨床研修、専門医取得のためにはさらに数年の研修が必要だし、日々進歩する治療法やさまざまな疾患について学び続けなくてはいけない。

尽も、そんな風にひたすら一人前になることを目指していた研修医だった。

一緒に過ごすとき、お互い仕事の話はしなかったから、彼が何科を、どんな医師を目指していたのかはわからない。

でも、不器用に思えるくらい、悩み、苦しみ、もがきながらも、真摯に仕事と向き合っていた彼のことだ。きっと目標を叶えているだろう。


「さてと……そろそろ、帰って掃除に励むとするか」


代理を頼む彼は、所長の家に滞在する予定なので、部屋の掃除をしなくてはならないらしい。
手伝いに行こうかと申し出たのを断った所長は、玄関で見送るわたしを振り返った。


「りっちゃん」

「はい?」

「幸生くんの父親のこと……恨んでいるかい?」

「……え?」


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