逆プロポーズした恋の顛末


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バレンタイン商戦が過熱する二月の初旬。
九重会長と同伴で食事に行くことになった。

ホステスになりたての頃は頻繁に同伴をしてくれていた九重会長だが、いまでは月に一度か二度ほどだ。
かつてのわたしのように、教育役を兼ねてヘルプに入る新人ホステスを伴うことが多いので、二人きりで食事をするのは本当に久しぶりだった。

バリスタを目指してイタリアに短期留学をしている孫の様子を見に行ってきたらしく、お土産話がたくさんあるらしい。


『孫の顔を見たら、なんだか久しぶりにアイちゃんとゆっくり話したくなってねぇ』


なんて嬉しいことを言われては、用意するチョコレートにも気合いが入るというものだ。
日本酒好き、和菓子好きな九重会長の嗜好に合うものをと、念入りなリサーチの末、日本酒を使ったチョコレートを用意した。


「アイちゃん、今日は老いぼれに付き合ってくれてありがとう」


わたしのボロアパートまで運転手付きの車で迎えに来てくれた九重会長は、自ら車を降りてドアまで開けてくれた。

同伴の時はいつもそうであるように、仕立てのいい三つ揃えのスーツ姿で、ピンと伸びた背筋は英国紳士を思わせる。

若かりし頃の会長と出会ったら、真っ逆さまに恋に落ちてしまう自信がある。


「とんでもないです。こちらこそ、お誘いいただきありがとうございます。九重会長とお食事するのが楽しみすぎて、昨夜はなかなか寝つけませんでした」

「そんな嬉しいことを言われたら、自分の年も忘れてうっかりプロポーズしてしまうかもしれん」

「あら。いつでもどうぞ。喜んでお受けします」

「コラコラ、年寄りをからかうんじゃない」

「からかってなんかいません。でも、身の程をわきまえて、貢ぎ物のチョコレートを捧げるだけにしておきます」

「身の程をわきまえるのは、わたしの方だよ……。お! これは……。ほう、日本酒を使っているのか。なるほど……」


車が走り出すなり、手にしていた紙袋を差し出すと、九重会長は目を細めて喜んでくれた。


「自分用にも買って試食したんですけれど、意外と日本酒とチョコレートって合うんですよ」

「ふむ。和菓子もなかなか合うことを考えれば、不思議ではないか。あとでじっくり楽しませてもらうよ、ありがとう。アイちゃんへの土産は店に届けておいた。段ボール箱いっぱいのチョコレートだ」

「嬉しい! ありがとうございます!」


処分に困るというのもあるけれど、どうしても気が引けてしまうので、高価なブランドものの腕時計やバッグ、アクセサリーなどのプレゼントはお断りしているが、消え物は別。
花や菓子類などの食べ物系は、喜んでいただくことにしていた。

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