逆プロポーズした恋の顛末
いつもステキなお店に連れて行ってくれる九重会長が今夜選んだのは、高級料亭。
すべて個室。ほかの客の目を気にせず食事を楽しめるようになっていた。
料理はもちろん絶品。和食に合うと勧められたワインも美味しくて、出勤前なのについ杯を重ねてしまう。
「やっぱり、和食が一番だなぁ。むこうにいる間、味噌汁が恋しくてしかたなかったよ」
「そうなんですか? おいしいイタリアンを食べていたんじゃないんですか?」
「確かに美味かったが、毎日となるとなぁ……。やっぱり日本の味が一番だ。孫の椿は、すっかり馴染んでいたがね。このまま日本に帰らないと言い出すんじゃないかと心配だよ。早くひ孫の顔を拝ませてもらいたいというのに……」
九重会長は男女二人の孫を溺愛していて、彼らのことがしょっちゅう話題に上る。
孫息子は、頭もよく仕事もできるが可愛げがない。
しかし、責任感が強く、何よりも家族を大事にしている。
孫娘は、自立心旺盛で行動力抜群すぎてハラハラさせられる。
しかし、優しい子で、会長の誕生日には何かしら手作りのものをプレゼントしてくれる。
バリスタを目指しているものの、彼女は芸術的センスも持ち合わせていて、以前見せてもらったハンドメイドの根付けは、そのまま売り物になりそうなほどセンスの良い逸品だった。
「椿さんのお兄さんの方は、どうなんですか? けっこう年が離れてましたよね?」
「柾か……。アレは、いわゆるイケメンだから女性にモテる。しかし、いままで誰とも本気の付き合いをしておらんな。重度のシスコンだから、よほど心の広い女性と巡り合えなければ、一生独身かもしれん」
「まさか! お見合いの話も山とあるでしょう?」
「確かに、わたしのところにも掃いて捨てるほど持ち込まれるよ。しかし……いままで、高学歴の賢い系、モデル並みのキレイ系、癒しのカワイイ系、世話を焼かずにはいられない天然系と年上から年下まで、各タイプとの見合いをセッティングしてみたが、どれもダメだった」
「理想が高い、とか?」
「理想が高いというより……他人を信頼できないんだろう。柾が学生だった頃、ちょっと断れん見合い話があったんだが、一服盛られてあわや既成事実を作られそうになったんだ。以来、信頼できる人間が用意したもの以外は、料理に限らず、飲み物すら口にしない」