逆プロポーズした恋の顛末
逆プロポーズから始まる……な関係
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タクシーを降り、スーツケースとスーパーで買い込んだ食材を詰めたエコバックを左右の手に携えて、思わず溜息を吐いた。
「……はぁ」
地元の空港まで、車で二時間半。
そこから飛行機で一時間。
乗り継いで、さらに一時間半。
空港から、最寄りの駅までリムジンバスで一時間。
駅からタクシーで十五分。
ほぼ半日を移動に費やしたいま、サビついた急な階段を二往復する気力はもはやない。
スーツケースを引きずって階段を上り、ぜえぜえ言いながら頼りないシリンダーキーで、薄っぺらい玄関ドアを開ける。
体当たりでもあっけなく開きそうなドアに鍵がついているのは、気休めだ。
築ウン十年のボロアパートの住人は、空き巣が狙う財産なんて持ち合わせていないとわかりきっている。
二週間も留守にしていたせいで、部屋の空気が淀んでいた。
締めきっていたカーテンを開けたついでに、窓も全開にする。
その向こうに見えるのは、ステキな景色……なんかではなく、ゴミと落書きに彩られた裏路地。
唯一、このアパートの良い所を挙げるならば、日差しを遮る建物が目の前にないことくらい。
かつて、ここと同じくらい古いアパートが建っていた土地は、更地のまま長年放置されている。
その光景が、何もない自分に重なって見えた。