逆プロポーズした恋の顛末
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半月前、わたしのたったひとりの家族である祖母が亡くなった。
祖母が、アルツハイマー型認知症を発症したのは八年前。
大学二年生の冬休み、年末年始を祖母の家で過ごそうと久しぶりに帰省して、様子がおかしいことに気がついた。
何度も同じことを話したり、料理の味付けを誤ったり。
時には、わたしを亡くなった母と混同したりすることも。
不安が募り、渋る祖母を何とか説き伏せて病院へ連れて行ったところ、認知症との診断を下された。
たとえわたしが一緒に住むとしても、山奥の一軒家では対処が難しいと言われ、地元から少し離れた町の介護付き有料老人ホームへ入所することになった。
近場で、低料金のところを探したが、入居希望者が多くてすぐには空きがなく、高額なところを選択するしかなかった。
さまざまな制度を利用しても、祖母の年金とわずかな蓄えでは費用を賄えない。
支払いの心配をする祖母には、そんなにお金はかからないと説明し、わたしは大学を中退して働くことにした。
もちろん、祖母には大学を中退したとは言わなかった。
たとえ言ったとしても、忘れてしまっただろうけれど……。
大学を辞め、何の資格も経験もいらず、高額な収入が得られる仕事を探す中、真っ先に思いついたのは、いわゆる夜の仕事だ。
とびきりの美人でもなく、おしゃれとは無縁。口べた。ひとことで言うと、「地味」。
そんなわたしが飛び込むには、かなりハードルが高い世界と十分わかっていたが、背に腹は代えられない。
ダメもとで、高級クラブ『Fortuna』の面接を受けたら、思いがけず採用されることになって、自分が一番驚いた。
人情派のママは、病気になった母親を支えるためにホステスになったそうで、わたしの身の上話を聞いて、とても他人事とは思えなかったらしい。
ホステスとは、お酒を飲みながら客の相手をすること。
そんな程度の知識しかなかったわたしは、華やかできらびやかな世界に圧倒された。
高級クラブの客は、それこそ経済界のトップや芸能人、アスリートなど、普通に生活していたら出会うこともない、お金持ちばかりだ。
規律の厳しい全寮制の女子高を卒業し、大学でも勉強に明け暮れて、男性と付き合うどころか片想いすらしたことのないわたしには、何もかもが未知の世界だった。
同伴で連れて行ってくれるお店も百パーセント高級レストランだから、テーブルマナーは必須だし、教養のある人たちと会話するには、それなりの下地が必要。