逆プロポーズした恋の顛末
別れの期限
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数時間後。
わたしの部屋へやって来た尽は、よっぽど疲れていたらしい。
すき焼きを平らげ、シャワーを浴びたあと、ベッドへ入ってわたしを抱きしめるなりあっさり寝落ちした。
一方で、わたしは短い眠りと目覚めを繰り返し、明け方になって眠ること自体を諦め、眠る尽をじっくり眺めた。
少しウェーブのかかった黒髪。形のいい額。一文字の凛々しい眉。羨ましくなるくらい長くて、濃いまつげ。
まっすぐな鼻筋。無精髭が散らばったシャープな頬は緩み、キスに最適な柔らかさの唇は、ちょっとだけ開いている。
眠っている姿を見ているだけで、こんなにも幸せな気分になれるなんて、どれほどこの男のことが好きなのか。
自分で自分に呆れてしまう。
(まさか、こんなに好きになるなんて……思わなかったわ)
始まりが始まりだっただけに、身体だけでなく、心まで完全に持っていかれるとは思っていなかった。
別れるときが来たら、あっさり笑って別れられるはずだった。
別れたくないなんて、この温もりを手放したくないなんて、そんな思いを抱くはずじゃなかった。
忘れたくない、忘れてほしくないだなんて、そんな気持ちになるはずじゃなかった。
恋を愛にするつもりは、なかったのに。
(どうしてくれるのよ? アラサーをこんなに好きにさせて……本気にさせて……どうしてくれるのよ? バカ)
いつも憎たらしいことばかり言う唇を指でなぞり、それだけでは足りなくて、唇を重ねる。
尽は、何事かを呟きながら、反射的にわたしにキスを返した。
捲れ上がったTシャツの裾から入れた手で、余分なぜい肉一つないお腹、広い胸を味わって、手を下へと伸ばす。
尽は、まだ半分夢の中のようだが、呼吸が乱れ、その手がわたしの身体をまさぐる様子に承諾を得たと見做して、キャミソールを脱ぎ捨てて、彼の上に跨った。
(寝ている相手を襲うのって、ちょっといけない気分で興奮する……。どうりで尽がよくやるわけだわ)
尽は、寝ているわたしの身体を勝手に触りまくってその気にさせ、完全に目覚める前にセックスへ持ち込むことがしばしばあった。
だから、怒ることはないだろうと踏んでそのまま彼を受け入れると、さすがに尽も目が覚めたようで、ギョッとした様子でわたしを見上げる。
「な、に……してんだ……」
「たまには、襲われるのもいいでしょ?」
「リっ……」
「抵抗しないで」
「律っ!」
「シたくないの?」
「…………」