逆プロポーズした恋の顛末
初めは、何とか抵抗しようとした尽も、火がついてしまった欲を吐き出さずにはいられなかった。
わたしがいつになく積極的だったこともあるだろう。
一度外れたタガは元には戻らず、尽はそれから何度もわたしを抱いた。
出会ったばかりの頃のように、それこそ一晩中と言っても過言ではない。
日が高く昇る頃には、さすがに空腹を我慢できなくなって、ようやくベッドから出てシャワーを浴びた。
(直前まで黙っているよりも、言ってしまった方がいいのかもしれない)
身体中に散った独占欲の証を見て、そう思った。
後回しにすればするだけ、わたしも尽も辛くなる。時間をかけて、緩やかに別れを受け入れる方が、痛みにも慣れてしまえる気がした。
入れ違いで尽がシャワーを浴びる間に手抜きチャーハンを作り、二人で黙々と食べる。
空になった食器を洗い終えて、ソファーに寝転がってスマホを眺める尽の横に座った。
「ねえ、尽」
「ん?」
「わたし、引っ越すことにした」
「……は? どこへ?」
「自分のお店の近くに」
「……自分の店って、どういうことだよ?」
驚きの表情でこちらを見る尽に、即席で考えたにしてはよくできた嘘を告げる。
「前から、お店を持たせてやるって言ってくれていたお客さんと、合意したのよ」
「合意?」
「まあ……簡単に言えば、愛人契約ってところね」
実際に店を持たせてくれそうな太客の中から、パッと思いついたのは、九重会長だった。
万が一、迷惑をかけるような事態になっても、彼なら対処できるだろう。
きっとわたしの浅はかな嘘を聞いて、「まったくアイちゃんは……」と笑い飛ばしてくれる。
勝手に使ってごめんなさい、と心の中で詫びながら、嘘を交えて具体的な話を作り上げた。
「彼、奥さんとは死別していて独り身なんだけど、結構なお年でね。いまさら結婚となると息子や孫たちへの説明も面倒だからってことで、籍も入れず、一緒に暮らすこともせず、お付き合いだけすることになったの」
「…………」
「彼との約束を優先しさえすれば、それ以外は好きにしていいって言われているけれど、さすがに不義理はできないから。尽とこうしていられるのは……今月いっぱいになるわ」
「店を持つのは自分には向かないって、言ってたじゃねぇか! しかも、愛人ってなんだよ!? そんなことまでして、店を持つ必要なんか……」
茫然としていた尽は、勢いよく身を起こしてわたしの心変わりを責めたてる。