逆プロポーズした恋の顛末
「あのね、わたしもう二十九なのよ。常連さんにはよくしてもらっているけれど、やっぱり若い子の方が人気はあるし、雇われホステスの先は見えている。いまさら結婚して、普通の家庭を持つなんて考えられないし、独りでも生きていけるだけのものが必要なのよ」
「だからって……あん時言ってた夢はちがうだろ!」
尽が、わたしのからかい半分のプロポーズを覚えていてくれたことが、嬉しかった。
いつか夢が叶うとしたら、幸せで、しわくちゃなおばあちゃんになったわたしの横にいてほしいのは、尽だった。
でも、夢は、現実にはならないから、夢なのだ。
「夢は、いつか醒めるの。わたしは、恋だの愛だのに溺れて浮かれるには……大人になりすぎたわ」
「…………」
哀しみよりも怒り、痛みよりも悔しさが勝っている尽の表情は険しく、いまにも爆発しそうだ。
「そんな顔しないでよ」
「……どんな顔しろって言うんだよ」
「笑ってよ」
「…………」
「わたしのこと、ほんの少しでも好きなら……最後まで、いつも通りの尽でいて」
尽は、それ以上何も言わなかった。
わたしが、言わせなかった。