逆プロポーズした恋の顛末
無事、任務を終了したので、あとは三人で診療所へ向かうだけ。
気まずいことこの上なかったが、所長が町の概要や買い物事情などを尽に説明し始め、会話に加わらずに済んだ。
すでに一日分のエネルギーを使い果たしたような心地で診療所に着くと、山岡さんが出勤済みで、待合室には患者さんの姿もある。
なんと、五人もだ。
「おはようございます。今日は……患者さん、ずいぶん多いですね?」
「もー、どこから情報を得たんだか。イケメンのお医者さんが来るって聞いて、ひと目見たくてやって来たのよ。今日は、常連さんたちが大挙して押し寄せるはずだから、忙しくなるわよぉ」
まさか、と思ったが、山岡さんの予想通り、続々と患者さん(常連さん)がやって来た。
月曜日は、普段から他の曜日よりも患者さんの数は多めだが、午前中だけで十人以上も来るなんて滅多にないことだ。
どう考えても尽のせいだとしか思えなかった。
(まあ、もともと若い人の少ない町だし、イケメンじゃなくても新しいお医者さんが来たなんて大ニュースよね……)
受付にいるわたしには、診察室の様子を窺うことはできないが、楽しそうな笑い声が漏れ聞こえて来る。
どうやら、尽はすっかり常連さんたちに気に入られ、打ち解けているようだ。
さすがに、尽も勤務時間中は、個人的なことよりも「医者」であることを優先させるだろうが、そのあとは……。
どんな展開になるのか、想像もつかなかった。
どうやって連絡を取るか頭を悩ませる必要はなくなり、手間が省けて幸い……と思いたいところだが、まったく心の準備ができていない。
いますぐ逃げ出したいような、それでいて、久しぶりに会う彼といますぐ二人きりになりたいような、両極端の気持ちが同時に湧き起こる。
けれど、現実問題、目の前にある仕事を放り出すわけにはいかなかった。
(とにかく、仕事が終わるまでは、考えるのをやめよう)
いくら考えたって、尽が何をどう感じ、考えているのかなんて、本人から訊かない限りわからないのだから。
そう自分に言い聞かせた。