逆プロポーズした恋の顛末
こんもりした林の中に建つ一軒家は、ふた昔前に建てられたような古くさい外観だ。
おそらく、尽のものだろう。
そんな家の外観にはまったく馴染まない、ピカピカのネイビーブルーの車が一台、家の前に停まっている。
「おじゃましまーす!」
幸生は、玄関で靴を脱ぐなり声を張り上げて、そのままリビングへ走り込む。
所長の家には、事あるごとにお邪魔していて、お泊まりさせてもらうこともよくあるので、幸生にとっては勝手知ったる「我が家」だ。
「幸生くん、お手伝いしてくれるか?」
「する!」
「じゃあ、りっちゃんと尽は野菜の用意をしてくれ」
「はい」
所長は、幸生と一緒にリビングにホットプレートをセット、わたしと尽は野菜係に任命された。
外観は古くさい家だが、中はリフォームされている。
畳は全部剥がしてフローリングにしてあり、水回りも最新の設備に一新。台所もシステムキッチンだ。
「りっちゃん、野菜は冷蔵庫から適当に出していいぞー」
「はーい」
冷蔵庫を開け、ピーマン、ナス、キャベツを取り出すと、尽が下ごしらえしてくれる。
洗った野菜はキッチンペーパーで丁寧に水気を拭い、たまねぎとじゃがいもを貯蔵庫から見つけて来て、手際よく皮をむいていく。
もとから器用なのもあるだろうが、あきらかに料理し慣れている様子に驚かされた。
一緒にいた頃、彼がキッチンに立つ姿なんて、一度も見たことがない。
「料理、できるの?」
「毎日じゃないが、時間がある時は自分で作る」
「何を作るの?」
「豚の生姜焼きとか、チャーハン、グラタン、ハンバーグ……その時、食べたいものだ」
尽が挙げた料理は、どれも幸生の大好物……というよりも、子どもが好きなメニューだ。
高級料理も食べ慣れているだろうに、B級グルメも好き、コンビニも好き、と意外と味覚が庶民的だったことを思い出し、つい頬が緩む。
「何だよ?」
「ううん、何でもない」
「お子さまメニューだとでも思ってるんだろ」