逆プロポーズした恋の顛末


最初から、仲が冷えていたわけではないのだろう。
上手くいっていた時もあるからこそ、そうでなくなった時に落胆や失望、後悔が生まれる。
最初から期待していなければ、何も感じないはずだ。

尽の祖母――彼女にだって、言い分があると思う。

しかし、夫婦のことは夫婦にしかわからないと言う。
他人で、しかも結婚してもいないわたしには、何か言う資格すらないんじゃないかと思えて、口を閉ざしたまま、耳を傾けるしかなかった。


「わたしとしては、離婚してもかまわないと思っていたが、仕事を放り出すわけにはいかない。息子にあとを任せられるようになるまでは、家庭内別居状態も仕方ないと思っていた。しかし、息子が予想より早く『自分は医者よりも経営者が向いている』と言い出してね。副院長や事務長の協力も得られたんで、六十になったのを機に離婚して、立見家を出たんだよ」

「そう、だったんですね」

「わたしが出て行ったあとの立見家の様子は、人づてにしか聞いておらんが……。息子夫婦は、どちらも仕事第一で、わたしらに輪をかけて夫婦仲が冷え切っていたからなぁ……。尽にとって居心地のいい場所でなかったことは、思春期に荒れ放題だったことで説明がつくだろう」

「そんなに酷かったんですか?」

「かろうじて警察の世話にはならなかったようだが、酒にタバコ、喧嘩はしょっちゅう。家に帰らず、友人の家を転々としていたこともあるようだ」

「…………」


優等生だったとは思っていなかったが、所長が眉をひそめて語る尽の素行の悪さには、開いた口が塞がらなかった。


「高校受験を機に生活態度を改めたものの、ご覧のとおりガラの悪さは、いまでも健在。幸生くんの前では、素でしゃべらないようにさせないと、あっという間に口の悪い子どもができあがってしまうぞ?」

「おい、ジイさん。いったい、いつの話してんだよ」

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