逆プロポーズした恋の顛末
「……え?」
「これからは、二人で幸生を育てたい。いままで何もできなかった埋め合わせをさせてほしい。幸生には、父親が必要だろ?」
尽の言葉は、もっともだ。
幸生はわたしに訊ねないだけで、自分の「パパ」はどこにいるのかと思っているだろう。
息子の存在を知った尽も、幸生の父親だと立場をはっきりさせて、関わりたいだろう。
わたしにしても、シングルマザーとして幸生を育てていくよりも、尽と結婚した方が、いろんな面で恩恵を受けられる。
けれど、脳裏には、ひとりで産んで育てることにした理由がいくつも浮かぶ。
年齢差、育ってきた環境のちがい、学歴と職歴といった埋められない溝。
弁護士に別れ話をするよう依頼した尽の祖母の存在。
そういえば、あの時の縁談は――「彼女」とは、どうなったのだろうか。
尽との未来を選べないと思った理由は、あの頃のまま、わたしたちの前に横たわっている。
わたしたちは、それぞれの四年間を過ごし、それぞれいろんなことを経験して成長した。
でも、ただ目の前の恋に溺れていた四年前から、「わたしたち」の関係は何一つ変わっていない。
それに……何より、幸生の気持ちが一番大事だ。
幸生の気持ちを無視してまで、尽と結婚するという選択肢はない。
「律?」
「……ちょっと、考えさせてほしい」