逆プロポーズした恋の顛末
そんな言葉を言われるとは、微塵も思っていなかったにちがいない。
尽は、唖然とした表情でわたしを見つめる。
「考える? 何を?」
「ずっと、シングルで幸生を育てていく覚悟でいたの。だから、突然気持ちを切り替えられなくて。何もかも、急すぎるし」
「そうだとしても、結婚してから徐々に慣れていけばいいだろ」
「そんな簡単なことじゃないわ」
わたしと尽の関係は、幸生にも影響を及ぼす。
お互い、自分のことにだけ責任を持っていればよかった四年前とはちがう。
軽々しく、くっついたり別れたりして、幸生を振り回すわけにはいかないのだ。
「尽は、本当に幸生の父親としてやっていける自信があるの? いまは、親戚のお兄さんだから、幸生は懐いている。でも、パパだと言った瞬間に、それが変わるかもしれない。もしかしたら、嫌われるかもしれない。今日会ったばかりなのに、どんな時でも、どんな幸生でも、一生関わっていく覚悟ができているなんて、言える? 酷なことを言うようだけれど……父親だと明かしたからといって、すぐに幸生に受け入れてもらえるとは、思わないでほしいの」
尽から、幸生の父親になる機会を奪ったわたしが言うなんて、おこがましいのは重々承知だが、本気だとわかってもらうためにも、目を逸らすことはしなかった。
じっと見つめ合い、長い沈黙の末、尽がようやく口を開く。
「……わかった」
あっさりそう言った彼にホッとするはずが、なぜかがっかりした。
(何を……がっかりしてるのよ? わたしの言うとおりにしてくれるなら、喜ぶべきじゃないの?)
しかし、尽が引き下がったと思ったのは、わたしの勘違いだったらしい。
「律の言い分はわかったが、納得できない」