逆プロポーズした恋の顛末
「え?」
「二週間。この町にいる間に、幸生と律に受け入れてもらえるようにする」
「どうやって? そんなの無理だし、無謀すぎる」
たった二週間で、幸生が生まれてからの三年間の空白を埋めるなんて、無理だ。
「お互いのことを知るには、一緒に住むのが一番手っ取り早い。ジイさんからの引き継ぎが終わったら、律たちのアパートで一緒に暮らす」
「ちょ、ちょっと待ってよ! いきなり一緒に住むなんて! 幸生になんて説明するつもり!? それに、周りのひとたちに何て思われるか……」
「親戚だってことになっているんだから、それ以上説明する必要はないだろ。幸生にも、俺が父親だと言わなくていい。ジイさんがいなくなって、ひとりで広い家にいるのが寂しいとでも言えばいい」
「でも!」
「まずは一週間、幸生が俺とどれくらい打ち解けられるか、様子を見る。それで大丈夫そうなら、一緒に暮らす。状況次第で、幸生が父親に会いたいと言い出すまで、本当のことを黙っていてもかまわない。父親は、簡単には会えない場所にいるとでも言っておけばいい。ただ……せっかく一緒に過ごせるチャンスを無駄にしたくない」
「尽が……早く幸生との距離を縮めたい気持ちはよくわかる。でも、期限を切らなくてもいいんじゃない? もっとゆっくり、時間をかけたら? 尽がこの町を離れたあとでも、休みの日に会うとかできると思うし……」
尽の望みを退ければ、幸生から「父親」を知る機会を奪うことになる。
それはしたくないし、してはいけない。
けれど、焦って距離を縮めようとして、こじれてしまう可能性もなくはない。
そう思って妥協案を示したのだが、尽は首を横に振った。
「むこうへ戻れば、幸生としっかり向き合うのに十分な時間を確保できない。休みの日も呼び出されるのは日常茶飯事だ。それに……期限を設けないと俺が我慢できなくなる」
「……どういうこと?」
「欲しいのは、幸生の父親という役目だけじゃない。律の夫という役目もだ」
わたしを見つめる尽の瞳は、見覚えのある熱に潤んでいた。
忘れていた感情が、急激に胸の奥から湧き起こり、じわじわと体温を押し上げていく。