逆プロポーズした恋の顛末
隠しきれない秘密
********
金曜日の昼さがり。
午前中にやってきた患者さんがみんな帰ったのを見届けて、診療所の玄関に「休診」の札を架けた。
毎週金曜日は、午後から訪問診療で所長が不在となる。
町の中心部から離れた場所に住んでいるひとり暮らしの高齢者のお宅を回るのだ。
バスや電車のない田舎町では、車という足を持たなければ自由に動き回れない。
家族がみんな都会へ出ていってしまい、山奥でひとり暮らし。持病があっても、なかなか診療所まで来られないひともいる。
「りっちゃん、山岡さん。尽を連れて、行って来るよ。急患があったら電話して。わたしらが戻らなくても、五時になったら帰っていいからね?」
「はい。気をつけて、いってらっしゃい」
出かける二人を裏口で見送って、山岡さんと顔を見合わせた。
「よし。じゃあ、始めますか」
「はい!」
診察がない金曜日の午後は、普段手の回らない整理整頓や掃除、備品のチェックや補充に集中できる貴重な時間だ。
診察で使う医薬品、消耗品などの発注は山岡さんに任せ、わたしは掃除に取りかかった。
床と窓を拭き、ほこりが溜まりそうな場所は念入りにチェック。
読みかけで放置されている医学書などの類は、開かれたページにしおりを挟んで机の上に積み上げる。
ひと通り掃除を終え、今度は受付のデスク周りを整理していると、発注を終えた山岡さんが「この一週間分で、いつものひと月分の注文になったわ」と笑う。
「いまだかつてない数の患者さんが診療所を訪れましたもんね」
「立見先生は、お年寄りに優しいし、診立ても完璧だし、百点満点ね。これなら、所長も安心して留守を任せられるでしょ」
尽は、常連さんたちだけでなく、ベテラン看護師の厳しい審査にも合格したようだ。
「若いけれど、優秀で有能なお医者さんですよね!」
自分のことじゃないのに、嬉しくて、誇らしくて、つい褒める言葉にも力が入ってしまう。
山岡さんも同感だと大きく頷いてくれた。
「しかも、子ども好き。幸生くんとあっという間に仲良くなったんでしょ? 毎日、晩ごはんを一緒に食べてるんですって?」
「え! ど、どうしてそれを……」