逆プロポーズした恋の顛末
「保育園で、幸生くんが嬉しそうに話しているみたいよ? 子どもたちからママとパパへ。パパからうちの旦那の耳へ。そしてわたしの耳へ。田舎じゃ、情報が拡散するのはSNS並み。あっという間なんだから」
山岡さんの言うとおり、焼肉をした翌日から、尽と所長と毎日晩ごはんを一緒に食べていた。
きっかけは、火曜日に降った雨だ。
雨の中、歩いて帰るのは大変だろうと、所長が幸生のお迎えに車を出してくれた。
それ自体は、いつものことで目新しくとも何ともなかったのだが、「尽」というおまけがついていた。
そのせいか、アパートに到着し、お礼を言って降りようとしたところで、幸生が「ママ、おじいちゃん先生とおにいちゃん先生も、お腹空いてるよ? ママの晩ごはん食べさせてあげて!」と言い出したのだ。
取り敢えず、お礼をかねてその日は四人で夕食のテーブルを囲んだ。
が、その翌日も、翌々日も雨だった。
尽のおまけ付きで、所長の車でのお迎えが続いた結果、幸生の中で『所長と尽が迎えに来る=みんなで一緒にご飯を食べる』という図式が、すっかり出来上がってしまった。
それは、幸生との距離を縮めたい尽にとっては、願ってもいない機会で。
わたしと尽との関係を正したいと思っている所長にとっても、好都合で。
そんな思惑のある二人が遠慮などするはずもなく、嬉々として幸生の招待に応じた。
幸生にしても、わたしと二人きりの時のように、寝る前まで待たされることなく、相手をしてもらえるのが好都合だ。
食事のあとは、尽のあぐらの中におさまって、絵本を読んでもらうのがルーティンになっている。
まずは一週間、幸生の様子を見て一緒に暮らせるかどうか考えると尽は言ったけれど、改めて検討するまでもない。
一緒に暮らすと言えば、幸生が大喜びするのは確実だ。
だから、いい加減覚悟を決めなくてはならないのだけれど……。
(毎日尽の顔を見て、その存在を身近に感じて過ごすなんて……幸生よりもわたし自身がどうなるか、不安だわ)
「ま、幸生くんがはしゃぐのも当然よね。だって、毎日パパとママが一緒にいてくれるんだもの」
「――っ!?」
山岡さんがサラリと口にした台詞に驚くあまり、複合機にセットしてようと手にしていた紙をぶちまけそうになった。
「や、山岡さん……?」
「ほんと、幸生くんは立見先生にそっくりよねー」
「それは、し、親戚なんで」
「親戚じゃなく、父親でしょ」