逆プロポーズした恋の顛末
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『いまから電話してもいいか? 話したいことがある』
尽からそんなメッセージが届いたのは、幸生を寝かしつけたあと。
軽く掃除をしたり、料理の作り置きをしたりして、一段落した頃だった。
(話したいことって……?)
月曜からのことかもしれないが、わざわざこんな時間に電話してくる必要に思い当たらず、首を傾げながら『いいよ』と返信。
三秒と経たずに、ディスプレイに尽の名前が表示された。
「もしもし?」
『幸生は? もう寝たのか?』
ワンコールで応答するなり、尽は幸生の様子を訊ねる。
「あのね。いま、何時だと思ってるの? 夜の十一時よ? とっくに寝てるわよ」
『……だよな』
電話越しに聞こえた心底がっかりしたような溜息に、保育園からの帰り道、しょんぼりしていた幸生の姿が思い浮かぶ。
わたしの予想を遥かに超え、短期間でも二人の間には強い絆が生まれているようだ。
「それで、話したいことって?」
『明日の予定は?』
「特にはないけど? いつも通り、溜まっている洗濯や掃除をして、幸生を公園で遊ばせて、買い物へ行くくらいで……」
『だったら、動物園へ行かないか? 三人で。N市の動物園のチケットがあるんだ。この週末はジイさんがまだいるから、遠出できる』
N市は、わたしたちが出会った場所であり、いまも尽が住んでいる場所だ。
動物園の規模は、隣の市のものより遥かに大きく、迫力ある展示は人気が高い。
幸生を動物園に連れて行きたいと思っていたところだし、幸生と尽の距離をさらに縮めるいい機会になるだろう。
断るべき理由は見当たらなかった。
「いいけど、かなり余裕をもってスケジュールを立てないといけないわよ? 電車とかバスの時間に合わせて行動するのは、まだ難しいから」
『俺の車で行けば、時間を気にしなくてもいいだろ? 休憩がてら寄り道できるし、幸生が寝てしまっても対処しやすい』
確かに、幸生と荷物を抱えて電車やバスを乗り降りし、人波を縫って移動するのは想像しただけでも大変なのが目に見えている。迷子の心配もしなくてはいけない。
車で移動できるなら、その方が断然楽だ。
「そうだけど、尽が大変じゃない? わたしも運転できなくはないけれど、交通量が多いところはちょっと自信ないわ」
『二時間程度だし、ドライブするにはちょうどいい距離だ。幸生が車酔いする性質なら、考え直すが』