逆プロポーズした恋の顛末
「それは大丈夫だと思う。保育園の遠足でバスに乗っても、酔わなかったし」
『決まりだな。足りないものがあるなら途中で買ってもいいが、一泊できるようある程度の準備はしてくれ』
「え? 一泊?」
『動物園近くのホテルに部屋を取った。その方が、時間を気にせずゆっくりできるだろ?』
はしゃぐ幸生に付き合うわたしも疲れてしまう可能性大なので、日帰りよりは一泊した方が楽だ。
しかし。
「あの、ホテルって……ひと部屋、よね?」
『当たり前だろ』
「…………」
月曜から尽と暮らすつもりでいたし、知らない仲ではない。
だから、いまさら緊張する必要なんてないはずなのに、胸がドキドキする。
(何を意識してるのよ! 幸生が一緒なんだから、尽だって妙な真似はしないはずでしょ?)
『律? どうした? 何か不都合でも?』
「え? う、ううん、大丈夫。むしろ、その方がわたしとしてもありがたいわ。幸生に付き合って、ぐったりするのは確実だし」
『予約したホテルは、動物園から十五分程度の場所にある。動物園と提携したファミリー向けのプランにした。部屋の内装は動物づくし、食事も動物にちなんだキッズ向けメニューが付いていて、ルームサービスに対応してくれる。チェックアウト時には、動物園グッズのプレゼントもあるらしい』
至れり尽くせりのプランは、人気も部屋の値段も高そうだが、子どもと泊まるのにオススメホテルをわざわざ調べたのだと思われる。
「幸生がきっと喜ぶわ。ありがとう、尽」
『ちなみに、子どもだけでなく、大人も童心にかえって楽しめるというのがコンセプトで、ルームウェアも各種選べるようになっている。幸生はパンダ、律はヒョウにしておいた』
「え? ちょっと! 幸生のパンダはともかくとして、なんでわたしがヒョウなのよ!」
『性格を反映させた結果だ。実物を見て、気に入らなければ、在庫がある限り交換可能だそうだ。ヒョウがイヤなら、ライオンやホッキョクグマもあった』
「……電話切るわよ」
『冗談だ。律のは、ゼブラにしておいた』
「たいして変わらないじゃないの!」
『肉食と草食だ。大きなちがいがある』
「ねえ、ほかに選択肢はなかったの? もっとかわいらしい、ウサギとかヒツジとか」
『律のイメージでは、思い浮かばなかった』
「尽!」