逆プロポーズした恋の顛末
『いかにも美味そうな恰好をされたら、襲いたくなるだろ? 大人しくシマウマになっておけ』
「な、何を言ってるのよ!」
『やっぱりヒョウにするか?』
「しない!」
四年も会っていなくて、ギクシャクするだろうと覚悟していたのに、ちっともそんなことはなかった。
距離を置こうとしても、尽がそれを許さない。
いともたやすく、わたしの頑なな心を解かしてしまうのだ。
出会ったあの夜と同じように。
電話の向こうから聞こえて来る笑い声が、耳をくすぐり、胸の奥までくすぐったくなる。
思えば、こんな風に電話で話すのは初めてだった。
一応、連絡先は交換していたけれど、せいぜい『部屋にいる』とか『XXが食べたい』といった用件のみのメッセージの遣り取りをしていただけ。
そもそも、恋人同士のするイベントだって何一つクリアしておらず、動物園行きは家族での初お出かけであり、わたしと尽の初デートでもある。
(いや、だからって浮かれているわけじゃないし! 電話を通すと、ますます好みの声だからってだけで……)
『律?』
「え? あ、うん。明日は何時出発の予定にする?」
『かっちり決める必要はないだろ。準備ができ次第でいい。遅くとも九時頃までに出られれば、十分だ』
「わかった。一応、努力目標ってことで頑張ってみる」
『ああ』
「…………」
『…………』
もう話すべきことはないのに、何となくまだ電話を切りたくない気持ちが湧き起こる。
それは尽も同じだったのか、不自然な沈黙が続く。
(いまさら、こんな……)
ドキドキしている心臓の音が、尽にまで聞こえてしまいそうだ。
ずいぶん長い間――といっても、たぶん一分程度――黙っていた尽が、おもむろに口を開いた。
『じゃあ…………おやすみ』
「うん……おやすみ」