逆プロポーズした恋の顛末
「平均的な人、普通の人なんて、本当はどこにもいないんだと思うわ。工場で大量生産しているわけじゃないんだから。何かしら、どこかしら、ちがっていて当然でしょ?」
偲月さんは目を見開き、しみじみした様子で呟く。
「なんかアイさ、いえ、律さんて大人ですよね」
「そう言うあなただって、十分大人じゃないの」
「そうなんですけど、まだまだ未熟者で。あのう……師匠って呼んでもいいですか?」
「は?」
冗談かと思ったが、彼女の表情は真剣そのものだ。
「ええと……」
困惑するわたしに助け舟を出してくれたのは、彼女の夫。朔哉さんだった。
「やめろ、偲月。律さんが、困っているだろうが」
「えー? だって、こんな風になれたらいいなって思う……」
「おまえには、無理だ。系統がちがう」
「ちょ、系統ってなにっ!?」
「キレイ系、カワイイ系、癒し系、小動物系、小悪魔系でいくと、律さんはキレイ系。おまえは小悪魔系。対極も対極だ。かすりもしない」
「なっ……」
顔を赤くして怒りに震えていた偲月さんは、何かを思いついたらしく、ふっと笑みを浮かべると千陽ちゃんに猫なで声で話しかけた。
「ねぇ、千陽ぅ。今日はママとお風呂入ろっか。さっき買ったアザラシさんが泳ぐおもちゃ。お風呂で試してみたくない?」
千陽ちゃんは、あからさまに目を輝かせて大きく頷く。
「うん! ママと入る!」
「ちょっと待て、偲月! 今日は俺が入れる番だろ!」
朔哉さんが抗議するも、偲月さんは鼻であしらう。
「千陽がママと入るって言ったんだから、わたしの番でしょ」
「……小悪魔め」
「えー、何か言った? 聞こえなーい」
「…………」
彼の方が年上だろうに、すっかり偲月さんに振り回されている様子が微笑ましい。
ポンポンと遠慮ない遣り取りが当たり前のようにできるのは、お互いの愛情がゆるぎないものだと信じているから。いい夫婦で、いい家族の証拠だ。
「わたしの方が、偲月さんに弟子入りしたいくらいなんだけど」
「わたしにですか?」