逆プロポーズした恋の顛末
「仲のいい家族で、羨ましい」

「それは、」


何かを言いかけた彼女が途中で言葉を切る。
不審に思って、その視線の先を振り返れば、ちょうど幸生と尽がこちらに向かって来るところだった。


「うわー。写真でも思いましたけど、本当に立見先生そっくりですね」


何も知らない人からすれば、二人は親子にしか見えないと思う。

偲月さんは、幸生と目線を合わせるように屈みこんで挨拶してくれた。


「こんにちは、幸生くん! わたし、ママのお友だちの偲月です。こっちは、わたしのダンナさんの朔哉で……わたしの娘の千陽。二歳だから、幸生くんの方がおにいちゃんだね!」

「こんにちは……」


幸生は人見知りしないたちだが、珍しくその表情が強張っている……というより、目が千陽ちゃんに釘付けだ。


「千陽も幸生くんに、ごあいさつして?」


偲月さんに促された千陽ちゃんは、モジモジしながら、「ゆーき ちはる……」と小さな声で呟き、朔哉さんの腕にしがみつくようにして顔を埋めた。


(か、カワイイ……)


わたしが抱いたのと同じ感想を幸生も抱いたらしく、子どもらしいストレートな褒め言葉を発した。


「ちはるちゃんって、すっごくカワイイね!」


一瞬、朔哉さんの表情が険しくなったが、偲月さんの肘鉄を脇腹に食らい、真顔に戻る。


「律さん。幸生くんアレルギーとかあります?」

「え? ああ、うん、いまのところはないけれど」

「ね、千陽。幸生くんにシロクマソフトクリーム、わけてあげたらどう? 仲良しになりたいでしょ?」

「……うん」


尽は彼女の向かい側の椅子に幸生を座らせ、自分はわたしの隣に腰を落ち着けた。

千陽ちゃんは、はにかみながら、プラスチックのスプーンにたっぷりよそったソフトクリームを幸生へ差し出す。


「あーん……」

「あーん!」


幸生は嬉しそうにパクりとそれをくわえたが、千陽ちゃんを抱いていた朔哉さんが茫然とした表情で呟く。


「千陽……パパ以外の男に何てことを……」

「ヤバっ! めちゃくちゃカワイイんだけどっ!」


一方の偲月さんはすかさずカメラを構え、「朔哉、邪魔!」と夫を押しのけ、「あーん」を繰り返すふたりの様子を撮影し始める。

千陽ちゃんは、恥ずかしがり屋でもサービス精神旺盛らしい。
半分くらい自分と幸生で食べたあとは、朔哉さんと偲月さん、続いてわたしにも「こうくんママ、あーん」をしてくれた。

そして、尽にも。


「こうくんパパ、あーん」

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