逆プロポーズした恋の顛末
その場にいた大人四人全員が、ハッとして思わず幸生を見る。
幸生は、屈託のない笑顔を尽に向けた。
「パパ、すっごくおいしいよ!」
(とりあえず、大丈夫そうだけど……)
わたしと同じくホッとした様子の偲月さんに、「申し訳ない」と目で謝られる。
尽と幸生の関係が微妙なものであることを知っている彼女と朔哉さんは、尽を幸生の「パパ」とは呼ばなかったが、子どもにそんな事情は通用しない。
尽はなんとか微笑み返し、口を開けて千陽ちゃんがくれたソフトクリームを食べた。
それからの幸生は、ニコニコ上機嫌で両生爬虫類館で見たものについて話し、ひっきりなしに「パパが言った」「パパが教えてくれた」とやたら「パパ」を強調する。
その様子はあきらかに不自然だった。
けれど、問い詰め、咎めるようなことはしたくない。
様子を見るしかないと尽も思ったのだろう。
幸生の頭越しに目が合うと、軽く頷いた。
偲月さんたちも、何も言わず幸生のおしゃべりに付き合ってくれた。
「わたしたち、このあと別の予定が入ってるのでもう帰るんですけど、あとでデータ送りますね。これ、もー、サイコーにカワイイし」
幸生のおしゃべりが収まったところで、偲月さんはカメラのディスプレイを見せてくれる。
そこに映っていた幸生と千陽ちゃんは、親の贔屓目を抜きにしても、何かの広告に使えそうなほどかわいらしい。
同じ瞬間をわたしが撮っても、こうはいかないだろう。さすがプロだと感心してしまった。
「ありがとう」
「じゃ、またねー? 幸生くん」
「ばいばい……こうくん」
「ちはるちゃん、バイバーイ!」
朔哉さんに抱かれて去っていく千陽ちゃんに手を振って、次は「シロクマを見に行く!」と言う幸生の要望に従い、カフェを離れた。
その後、レストランで軽い食事を取り、ふれあい広場でウサギやヤギなどと戯れ、もう一度お気に入りの展示を巡って、動物園を出たのは閉園時間ぴったりの五時だった。
明日の筋肉痛を確信しながら、車で十五分ほど離れた場所にあるホテルへ移動。
スーペリアクラスのホテルは、解放感あふれるロビーを持ち、シンプルかつ洒落たインテリアが落ち着いた雰囲気を醸し出していた。
廊下やエレベーターも広く、ストレスを感じない。
部屋は高層階のジュニアスイートで、一歩入るなり、幸生が「わぁ!」と声を上げた。