リナリアの咲く季節には、キミが隣に。
「……南先輩、いない」

花壇に南先輩の姿は見当たらない。


……いない。

先輩、もしかしてもう帰っちゃった?


「……はぁ」

花壇の前にしゃがみこむ前に、膝に両手をついて呼吸を整えた。


ふと顔を上げると、目の前には鉢にシクラメンが植えてある。

大粒の花びらに鮮やかなピンクが色づき、寒くて寂しげな季節を彩る。

冬には欠かせない鉢花だ。


これも図鑑を読み込んで覚えた花。

先輩との関わりがなくなっても、図鑑は手放せなかった。

家に帰って時間があると開いてしまう。図書室でも花にまつわる本をたくさん借りた。


花を知っていく、育てていく楽しさを、先輩から教わってしまったから。
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