「LOST LOVE 小さくても良いから明かりを見つけたい」金沢OLのピュアな恋。

昼過ぎの日射しが届いて、コートなしでも外は意外に暖かった。
時計を見ると、30分もある。
慌てる必要もないのに随分と早く着いていたようだ。
昨日の降った庭先の雪は既に片付けられている。

清水が時折垂れる鹿威(ししおど)しには紅葉の葉が一枚浮いている。
静寂の中に響く音、「コーン」が耳元に届いてくる。
美しい庭園が織り成すその心遣いは憎いほどだ。
流石やなあ…… 日本の(みやび)……
ここにいるのは、寂しいボッチの化け狐。

普段思いもよらない言葉が浮かんでしまう。
改めて、これまで縁のなかった老舗料亭の庭だと気づく。

ふと見ると、小粋な池の向こうに人影が。
白いダウンを着た黒縁メガネをかけたひとりの男の姿。
まるで、狸というより、体格の良い白熊みたいなものに目に止まる。
わたしの視線を感じると、爽やかな笑顔で(こうべ)を垂れて声をかけてきた。
もちろん、見たことのない初めて会うひとだ。
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