春夏秋冬《きせつ》の短編集
仕事に来たって、またいつもと同じような一日の繰り返し。

…まただ。会社からのお叱りの電話…売り上げが前年度より少ないだなんて、俺の知ったことでもないのに。
店で色々と新商品を作ってはみたが、こう次々と新しい店が出来たんじゃ……
…もうやっていられるか。

「俺の休憩まだだしな、取らないつもりだったが少し頭を冷やしたいんだ…!悪いな…!!」


誰もいない店裏。もうすっかり夕方だった。

…こんなつもりじゃなかった。
俺だってこんなことを続けたくなんかない…こんなことならさっさと飲食店なんか……

思わず空を見上げた。
夏の夕暮れに空と雲が赤く染まり、まだ昼間の熱を残した風が吹く。
そう、もうすぐ祭りの季節……


『アツギくん、お店やりたいんだっけ?』

なんでこんな時にアイツのことなんか…

『どんな料理が作れるの??君の作った料理、食べてみたいな。この綿あめより、焼きそばより美味しい?』

アイツ、あんな楽しそうに…

『そういえば前に学校で作ったの、変わってるけど美味しいって褒められてたね。頑張ってよ、私、いつか食べに行くからさ。』

嘘つけ、さっさと一人で行っちまったくせに…


お前には無理だと周りにバカにされた、自分の店を持つ夢。
彼女だけが目を輝かせて聞いてくれた。

アイツがいなくなってからか…俺が全部諦めたのは…
調理師免許も取らずに俺は……


気付けば周りは風の音だけが響いている。
夜の駅前なんて騒々しいものなのに、俺のいるここだけが切り取られたように、他の音は聞こえない。
酷く現実味が無いように感じた。
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