俺の好きにさせてください、お嬢様。
「君は……早瀬家の、」
「はい、早瀬 真冬です。ご無沙汰しております柊様」
「これは驚いた。執事として立派になっているとは小耳に挟んでいたが……確かイタリアにいたんじゃなかったか?」
初めてだ…。
いつも書斎机から目を離さないお父さんが、自分から顔を上げてくれるなんて。
それからハヤセと一緒に実家である柊家に向かった午後。
正直やっぱり足は重かったけれど、ハヤセが隣にいたから勇気が出た。
「俺は今、エマお嬢様の専属執事になるために1年前から日本に帰ってきているんです」
「…なに…?エマだと?アリサの間違いだろう」
「いえ、エマお嬢様です」
はっと、お父さんは鼻で笑った。
そんな反応をされることなんか分かっていたし、いつものことだ。
「君は物好きなんだな。アリサの許嫁を蹴ってまでも出来の悪いほうに行くとは。そんなの早瀬家にも申し訳ないじゃないか」
面倒事を増やしやがって───お父さんは怪訝そうに視線で伝えてきた。
それはわたしに対してだった。
「いえ、これは俺が選んだことですから。早瀬家も承知の上です。ただ今日はご挨拶をと思いまして」