俺の好きにさせてください、お嬢様。
「早乙女君とアリサの婚約が破談となった今、柊家の娘としてエマにも名のある御曹司に嫁がせる」
「旦那様、少々身勝手ではありませんか?」
「……なに?」
ハヤセが強く出た。
お父さんは髯をいじっていた手を止め、わたしの隣に立つ執事を鋭い眼差しで見つめてくる。
「あなたは本当なら娘を見放すつもりでエマお嬢様を公立高校に通わせる気だった、苗字を変えさせてまで。
しかしアリサ様が事故に遭い、その代わりとして聖スタリーナ女学院に通わせ、すべての肩代わりにさせた。
それが上手くいかなかった次は、他の御曹司に嫁がせるなど」
ピリリッと、場の空気が冷たくなった。
「なにが言いたいのかね」と、お父さんの言葉にハヤセはぐっと拳を握る。
「話が良すぎるだろ、と言っているのですよ柊様」
低い声はちょっとだけ震えていて。
それは怒りからきたものなんだろうと、わたしですら理解ができた。
「あなたは1度でもエマお嬢様を褒めてあげたことはありますか?」
「ふん、褒められることをしてくれたならば俺だって褒めるさ」
「なら…“ありがとう”という言葉ひとつでも娘に贈ったことはありますか」
「ありがとう?なぜ俺がエマなんかに言わねばならんのだ」