俺の好きにさせてください、お嬢様。
それは誰のために流したもので、どんな意味が込められたものなのか。
ただまっすぐお父さんを見据えながら止めどなく頬を伝ってゆく涙は。
すごくすごく、綺麗で。
「───…ろよ、」
ハヤセはボソッとつぶやいた。
唇をぎゅっと噛んで、お父さんへ。
「なんでもいいから、一言でもいいから……優しい言葉をかけてあげろよ……、あなたの娘は今でもずっと“お父さん”って呼んでいるじゃないですか…、」
ハヤセ、ハヤセ。
もういいんだよハヤセ。
泣かないでハヤセ、ハヤセが泣く必要なんかどこにもない。
「嘘でもいいから……形だけでもいいから1回でも褒めてやってくれよ…っ、」
それまで褒められたことは1度も無かった。
だからわたしが初めて褒められたのは、ハヤセに出会ったとき。
ミシンを壊してしまって手縫いをしていたわたしに、『すごく上手ですね』って言ってくれた。
だから本当にびっくりして、すごく嬉しくて泣きそうにもなって。
この人がわたしの執事だったらなぁって思ったっけ…。
「嘘でいいのか?形だけでいいのか?そんなのだったら幾らでも言ってやる」
「…今更なに言ってんだよ…、それすらもしなかったのがあなたでしょう、」
「……そんな暇はなかったのでね」