俺の好きにさせてください、お嬢様。
子供なんて単純だから。
それがたとえ形だけの嘘だったとしても、親から褒められれば一生ものの宝物になってしまう。
だから大きくなっても、昔はこんなことで褒められたなぁって、ふと思い出すときがあるはずで。
だけどどんなに探したって、わたしにはそんなもの無くて。
「あなたの娘がいつもたった1人で頑張っていたのを、…俺はずっと見ていた」
ハヤセ、ちょっと違うんだよハヤセ。
わたしね、ハヤセと出会ってからは“1人”って思ったことが無かった。
あなたがお姉ちゃんの執事になっちゃったとしても、それでもやっぱりハヤセだけは味方でいてくれたから。
「エマお嬢様は周りからどんなに馬鹿にされたって、認められなくたって…、
父親の命令を成し遂げようと精一杯あんたの娘として生きてたんだ……!!」
誰よりも悔しそうな顔をして、誰よりも悲しそうに嘆いて。
そんな人だからわたしは彼を好きになったんだよお父さんって。
言葉で通じないなら、もう背中で語ろうと思った。
「それを……っ、馬鹿な女が捨てていった赤ん坊だなんて…、勝手に産んだなんて言ってやるなよ……!!!」
ハヤセはこんなにも声を上げることができる人だったんだと。
いつも冷静で完全無欠で、本心を顔にも態度にも出さないような人だと思っていたから。
いつだって理性を保てる人だと思っていたから。