俺の好きにさせてください、お嬢様。
でも今は、そんなものどうでもいいって言うみたいに感情を出してる。
「…1度でも、エマお嬢様を抱き上げたことはあるんですか、」
「……」
ハヤセの質問に返事は無かった。
それは「ない」ということだろう。
もしあったら、プライドが誰よりも高いお父さんならば「ある」と自信満々に豪語していたはず。
わたしが覚えてる小さな頃の記憶でも、抱き上げられたことは1度もない。
「…ないのか、」
「……そういった世話はすべて使用人に任せてあったのでね。まぁ、…アリサなら産まれたときに1度だけあるが」
「───ふざけんなよ!!!」
わざわざそれを言ったお父さんは、わたしとハヤセに仕返しをしたのだ。
言わなくてよかった。
言う必要がなかった、それだけは言ってはいけなかった、普通の親ならば。
それでも言ってしまう、それがお父さんだ。
今にも飛びかかる勢いで身を乗り出したハヤセは、ギリギリで声だけに抑えた。
「怒らないでくれ、早瀬君。俺は昔から忙しかったんだ」
「…どんなに忙しくても自分の娘のためなら時間を惜しまない、それが父親じゃないのか」
「…俺の娘は1人だと思っていたからな。間違いだったんだ、仕方ないだろう」
「間違い…?仕方ない…?ふざけんな…、あんたの血が半分も入った娘だろ……!!」