俺の好きにさせてください、お嬢様。
なんて綺麗な言葉の紡ぎ方なんだろうって思った。
幸せを与えることが“できる”と断言すると、わたしにプレッシャーを感じさせてしまうとハヤセは考えているんだろう。
上手、だなんて。
そんなのわたしが言われて一番ホッとする言葉だ。
「それがすべてでしょう。あなたは貪欲すぎる」
「ふっ、さすがあの女の子供じゃないか。泥臭くて貧乏臭いな。俺はあの女と出会って逆に不幸になったぞ」
「それはそうでしょう。あなた自身が不幸の塊のようなものですからね。
こんなにも素敵な娘が目の前にいるというのに、見向きもできない方なのですから」
穏やかに答える中にも皮肉が込められていた。
たった今はあんなにも怒っていたのに感情をコントロールしてしまうハヤセは、さすがSランク。
「俺はどうやら柊家の婿養子にならなくて正解だったようです」
まるですべてはこのときのためにあった、とでも言うように。
ハヤセは続けた。
「柊様、高校を卒業するまではエマお嬢様の苗字を“柊”でいさせてあげてください」
少し動揺しているお父さんは、ハヤセの次出る言葉を待っていた。
わたしも色んなことに追い付けないまま空気感を合わせた。