俺の好きにさせてください、お嬢様。
低い声で名前をつぶやくと、すぐにバッ!と頭を下げてきた。
もう、そんなことするなら最初から言わなければいいのに…。
けれど単純に嬉しかった。
「───…ありがとう」
睨む目線を、ふっと和らげて伝えた。
きょとんと不意を突かれたような反応をして、碇は途端に泣きそうに顔を歪ませる。
「理沙お嬢様…、」
「碇、あなたはずっと私の執事でいなさい。それだけで…いいわ」
幸せよ、それだけで。
あなたのようなおっちょこちょいで困り者の執事が隣にいれば、自然と笑顔になれるもの。
それに私には賑やかでバカなうるさい友達だっている。
それだけで───…いいのよ、私は。
「………なにしてるの、碇、」
「手、手が滑ってしまって…!」
「……どんな滑り方したらこうなるのよ」
「…わ、わかりません、」
抱きしめられてるんですけど…。
不器用で不慣れで、心配になってくる力加減だけど嫌ではなかった。
今までの私なら「なにしてんよ…!」と強気に言っていたのに。
もう少しこのままで……なんて思ってしまってることが一番の驚き。