俺の好きにさせてください、お嬢様。




低い声で名前をつぶやくと、すぐにバッ!と頭を下げてきた。


もう、そんなことするなら最初から言わなければいいのに…。

けれど単純に嬉しかった。



「───…ありがとう」



睨む目線を、ふっと和らげて伝えた。

きょとんと不意を突かれたような反応をして、碇は途端に泣きそうに顔を歪ませる。



「理沙お嬢様…、」


「碇、あなたはずっと私の執事でいなさい。それだけで…いいわ」



幸せよ、それだけで。

あなたのようなおっちょこちょいで困り者の執事が隣にいれば、自然と笑顔になれるもの。


それに私には賑やかでバカなうるさい友達だっている。

それだけで───…いいのよ、私は。



「………なにしてるの、碇、」


「手、手が滑ってしまって…!」


「……どんな滑り方したらこうなるのよ」


「…わ、わかりません、」



抱きしめられてるんですけど…。


不器用で不慣れで、心配になってくる力加減だけど嫌ではなかった。


今までの私なら「なにしてんよ…!」と強気に言っていたのに。

もう少しこのままで……なんて思ってしまってることが一番の驚き。



< 139 / 140 >

この作品をシェア

pagetop