俺の好きにさせてください、お嬢様。
「ねぇ碇?」と、理沙は確認するように専属執事を見つめた。
泳げないCランク執事の碇(いかり)もまた、わたしの気持ちを見抜いているかのようにうなずく。
「エマお嬢様、こちらを向いてください」
「んっ?わっ、あうっ」
そんな会話を気にすることなく、わたしの唇の横を布巾で拭ってくるハヤセ。
わたしの前に丁寧にしゃがんで優しい顔をして、絶妙な力加減で。
そんな光景も珍しくないから生徒たちだって今では騒がないし悲鳴も上げない。
それはお姉ちゃんである柊 アリサ(ひいらぎ ありさ)が認めてくれたからっていうのもあるかもしれない。
「あっ!お姉ちゃんっ!」
「エマ。もう、真冬くんに甘えてばかりじゃだめって言ってるでしょう?」
「ううんっ!ハヤセが勝手にやってくるの!ねぇハヤセ!」
「はい。俺がそうしたいだけです」
食堂を通りかかったお姉ちゃんの隣には、杖をついたおじいちゃんが1人。
御子柴(みこしば)さんは聖スタリーナ女学院の最年長執事だ。
わたしの執事がハヤセに戻って、御子柴さんはギックリ腰で入院していたけど無事に退院となって。