俺の好きにさせてください、お嬢様。
「ん…っ!」
軽いもので終わらすつもりだった。
けれど1度重ねてしまうと自然と深いものになってしまう。
「んんっ、はや…せっ…、」
「───…行ってきます、エマお嬢様」
「…い、いってらっしゃい…」
今にも腰が砕けそうな真っ赤な顔に見送られ、俺はエマお嬢様を残して寮であるマンションを出た。
執事であったとしても1人の男。
執事であったとしても1人の人間。
たとえば好きな本を買ったり、今日のような日の私服を買ったり。
時間が余ったなら息抜きにカフェに寄ったっていい。
生活シーンを見せてはならない執事だからこそ、この日だけはお嬢様を連れてはいけないというのが執事界のルールだった。
「……偶然だね、まさか狙って来た?」
「…んなわけあるか」
「隣どうぞ?ここしか空いてないよ」
無事に買い物を終え、時間が少し余ったこともあってコーヒーでも飲もうかと。
とあるオフィス街の洒落た店に入った俺は、面倒な男と遭遇してしまった。
「ここのコーヒー美味くてさ。けっこう来てんの俺」
「俺は初めて来た」
「だろうね、珍しいなって思ったんだよ。エマは一緒じゃないの?」
留守番だと簡潔に答えた。