俺の好きにさせてください、お嬢様。
この男とは仲が良いわけではないが、悪くもない。
俺と早乙女 燐の関係を言葉で表すならそんなところだろう。
俺がアリサ様の執事になったとき、まさかこいつがエマお嬢様の執事として聖スタリーナ女学院に来るとは驚いたが。
でもあれがあったからこそ、俺はエマお嬢様と気持ちが通じ合えたのだとも思う。
「最近どう?」
「…どうって何がだ」
「んー、じゃあ俺から報告していい?」
ふわっと香ったコーヒーの匂い。
1杯飲んだ早乙女は、落ち着いた様子で顔を和らげた。
「色々あったけど柊と早乙女は繋がるね、たぶん」
「…だけど婚約ではないんだろ?」
「いや?笑っちゃうかもだけどさ、アリサが高校卒業したら俺アリサ連れて海外行くかも」
思わず早乙女に顔を向けてしまった。
破談解消ってことか…?
確かにそこも悪い関係では無かった。
むしろアリサ様は早乙女に惹かれているだろうし、早乙女も今の表情を見てしまえば察する。
「ふたりで新しい事業をゼロから始めるのもいいかなって。というより俺はね、」
とりあえず柊のおじさんから離れさせたいんだよ───。
そう言い切った早乙女の声は、優しい中にも覚悟が見えた。