俺の好きにさせてください、お嬢様。
「あのおじさんはかなり厄介だからさ、秘密で進めてる。向こうは逆に早乙女を乗っ取る気だろうし」
「…あぁ、俺もあの人はあまり好きじゃない」
「うん、普通ならそんなこと知ってれば早乙女財閥の跡取り息子である俺は柊の長女なんか願い下げなんだけど。
これが困ったことに、俺がアリサを離せそうにないらしくてびっくりだよ」
だから自分の好きなように、好きになった女と穏やかに暮らしたいってことだろう。
その気持ちは分かるからこそ、俺は軽い笑いで返した。
「ただそうなると早瀬さん、柊のおじさんはエマに目が行くだろうね。たとえどんなに問題児の娘だとしても」
「わかってる。そこを守るのが俺の役目だ」
「なんだったら早瀬さんもエマ連れて逃げちゃえばいい。エリートなら余裕だろ」
それは軽々しく言っているようで、わりと的を得ているのだ。
“逃げる”と言ってしまうと駆け落ちのような言葉に聞こえてしまうが。
俺だって一応は早瀬という名のある名家の人間だ。
早乙女が柊家の長女を拐おうとしているように、俺だって難しい話じゃない。
「柊のおじさんは自分の利益しか考えてないから。本当の娘にすら愛情より先に欲が動くような男だ」