俺の好きにさせてください、お嬢様。
「ただいま戻りました…!エマお嬢様、」
「わっ!お、おかえりっ!!……へへ、えへへ、」
笑って誤魔化しているが、キッチンはすごいことになっていた。
シンクにはボウルに泡立て器、卵の殻やらが散乱していて。
何より床にぶちまけられるように散らばった粉。
「なにが…あったのですか、エマお嬢様」
怒る気はない。
むしろここまで頑張ろうとした気持ちだけで愛しさが込み上げてくるほどだ。
「ハヤセ…お腹空いてるかなって思って、パンケーキ作ろうとしたら……」
「作ろうとしたら?」
「手が、滑っちゃって………ぶちまけた…」
素手で粉をかき集めるエマお嬢様自身がすでに粉だらけ。
そんな小さな背中は、聖スタリーナ女学院で初めて出会ったときを思い出させる。
そのときも割れた花瓶を土だらけの手で一生懸命かき集めていた。
「ふっ、」
「もうっ、笑わないでっ。破壊神でも頑張ろうとしたもん…!」
「ごめんなさい。…エマ、」
「わっ…!ハヤセ粉だらけになっちゃう!」
たとえば俺が仕事から帰ってきて、こうして必死になりながら俺のために料理を振る舞ってくれるエマお嬢様。
そんな未来があるのなら、どんなに幸せだろうと思った。