赤い雫のワルツ
この街で普通に暮らしてきた私には、そこら辺の公爵家の事情はここに来るまで、一切知る余地もなかった。
「私が寛大でなかったら、今頃私に全ての血を捧げていたかもしれないと言うのに」
「では、今からでも構いません。私の血を飲みますか?」
「……それは、しない」
そう、何故かご主人様は私をここに攫ってきたというのに、私の血を啜ることはしなかった。
本来血を吸われればその時の記憶を消されるというのに、血を吸われなかった私はご主人様の存在をしっかりと知ってしまったのだ。
何故吸わないのかと聞いても、はっきりと答えてはくれないし、本当のことは言わない。
「君の血はまだ若いせいで、熟成してないから不味いに決まっている」
「若いって……私もう成人の儀は終えているのですが」
本来だったら街で仕事を探して、一人の大人として生活しているはずだった。
だが、この屋敷に来てから、何故かここでメイドとして住み込みで雇われることになった。